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船がクック湾に入ると、白いTシャツとショートパンツをユニホームにした、地中海クラブのスタッフたちが迎えてくれた。クラブのバスに乗り、快晴の空の下をひた走る。

やがて島を半周したところでバスはクラクションを鳴らし始め、そのまま花が咲き乱れるクラブの白い道を本館の赤い建物にむかって進んでいった。クラクションが鳴りやみ停車すると、原色の建物の中からドバーッと繰り出してきた面々が楽器を手に歓待してくれる。それを見たとたん、また頭の線が何本か切れた。



銀河は南十字星を抱いて、そのなかを流星が走り去る
まるで宝石の海のようだ


「クラブメッド・モーレア」
椰子林の迷路の中に何十ものコテージが建っている。
その中のひとつに荷物を置き、浜辺にでかけた。
砂の上で白人達が日光浴をしている。女性の3人に1人はトップレスだ。そして人々の挨拶は笑顔。
地中海クラブのバカンス村では現金は遣われず、ドリンク類などは“ビーズ”とよばれるオレンジをかたどった小さいプラスチックの珠で買う。トロピカルドリンクを手に波打ち際を歩いていると、足元に色とりどりの小魚たちが寄ってくる。目の前を夢のように白い鳥が横切った。頭の線がまた切れる。

レンタカーを予約するため、クラブの案内所へ行った。
中でとても美しい日本人スタッフの女性が電話をかけている。その傍らで近くのレンタカー店に連絡を取ってもらった。車の空き時間を調整してもらうのにだいぶ手間取ったが、幸い明日の朝から夕方までキープすることが出来た。車種はアルファロメオのカブリオレということだった。
そのあとジェイムズ・ボンド気分でドライマティーニを飲みながら施設をうろうろしていると、さっき案内所で電話をかけていた美人のスタッフと出会った。
「車、うまく借りられましたか?」
と、気にかけてくれる。こういう細やかな気配りこそが世界の地中海クラブなのかと感心した。

「うん、お陰様でありがとう。ところで明日は、ずっと忙しい?」
「んーん、べつに」
「じゃあ案内してもらえるかなァ。島を取材したいんだけど、言葉が全くわからなくて…」
「ええ、いいですよ」
「もう。ここにきてどれくらい?」
「飛行機あなたと一緒でしたよ」
「そーか、ごめん。明日何時がいい?」
「9時…少し前がいいかな」
「それはここの時間で?」
「ええ」
「OK」
「じゃあ」

ここの時間で?と訊いたのは、モーレアのバカンス村の時間は標準時とは1時間違っている。それは欧米に較べて日没が早いために、一日をもっと永く楽しんでもらおうと村長が勝手に時計を進めたためだ。
地中海クラブは、多目的滞在型レジャー施設の代表格としてパリに本部を置き、世界中に百カ所を超えるバカンス村を運営している。
「フランス人が運営しながら、アメリカを最大のマーケットにしているところに、洗練された遊びのセンスが生まれるんです」と、UTA航空の添乗員のNさんが言っていた。

すっかり良い気分になってコテージに戻り、ベッドで大の字になってあとはわからなくなった。
暗くなって目を覚ますと遠くのホールでディスコが始まっている。
珊瑚礁の砂浜を歩き、ひとり埠頭に寝転がっていると、空高く流れ星が飛んでいく。星くずは水平線の近くにまでひろがり、まるで宝石を散りばめた白い龍のような天の川が夜空をまたいでいた。