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世界中の光を集めて空よりも明るく輝く海
旅のクライマックスは神々の伝説を宿す島 ボラボラへ

翌朝8時の便でいよいよボラボラに向かう。ポリネシア航空の小型機の外には深い藍色の海が一面にひろがっていた。
となりの席には航空関係のSさんが座っていて、道中面白い話を聞かせてくれた。

特に、まだハイジャックもない平和な時代のこと、元空軍でキャリアを積んだベテランパイロットに酔っぱらった乗客がからみ「宙返りしてみろ、出来ねえのか」などと挑発したために、頭に来たパイロットが大勢の客を乗せたままジャンボ機で宙返りをやってクビになったという話。
(詳しく知りたくて最近ネットで調べたがそれらしい事実はまだ確認できていない。宙返りをやるには旅客機の運動性能と耐久性から考えてかなりの危険が伴うが、実際にするしないは別にして大手航空会社の旅客機のパイロットはジャンボ機で宙返りするほどの能力を求められているというから、あながち根も葉もない話ではないだろう。噂話で尾ひれがついていたとしたら、実話は、副操縦士との仲がうまくいっていないストレスを抱えた主操縦士が酔漢の挑発にプッツンして宙返りに挑戦し、「これはやばい」と思った副操縦士が必死で止め、そのことを会社に報告したことによって主操縦士がクビになった、というところではないだろうか。副操縦士まで一緒になって宙返りを楽しんだとしたら、主操縦士は部下から相当な信頼を得ていた人物だろう。どちらもありうる話だ。余談)
彼の話に腹を抱えて笑いながら僕は慣れない空の不安をごまかしていた。
僕はSさんにコクピットの写真が撮れるようにお願いした。

ダメモトだったが機長は快くOKしてくれた。写真を撮っている僕の後ろに何人もついてきた。
エメラルドグリーンの環礁に包まれた島影が見えてくる。島がぐんぐん近づいてくる。椰子の木が一本一本まで見える。車輪が地面に接触する。急に大きな回転音。やがて静かに静止する。

三度目のフライトで、僕は操縦士の視点からボラボラ島への着陸を見た。
飛行場のある環礁からボラボラ本島まではだいぶ離れており、水平線に生い茂る椰子や周辺の風景に感動して写真を撮っているうちに、渡し船が出てしまった。
ボーッと時間をつぶしていると、ラッキーなことに臨時便がでるらしい。英語の分かる人を探してジェスチャーを交えて訴え、30分後の船に乗った。

船は埠頭を離れ、エメラルドグリーンのラグーンに入っていった。
何という海の色だ。
それにこの明るさ。空よりも明るい海。まるで世界中の光を集めて自ら輝いているようだ。風が見える。
気が付くと目尻に涙が伝っている。潮風のせいかと思ったが、違う。心がふるえているのだ。
僕はいま神が描いた絵の中にいる。