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半時間ほどして船はボラボラ本島の港に着いた。
タクシーが見当たらないのでバスをチャーターして地中海クラブのバカンス村に向かう。バスの運転手は力士のようなおばちゃんで、ごつい腕でハンドルを切り回しながら細い道をぶっ飛ばした。そして激しくクラクションを鳴らしながらバカンス村の入り口に着く。中から7〜8人のスタッフが楽器を手に、(予期せぬ来客に慌てながら)飛び出してきた。ギターと拍手で迎えられ、髭の村長さんが右手を差し出し「ヨウコソイラッシャイマシタ」と満面の笑顔で迎えてくれる。握手で挨拶をし、いいのかなあ…と思いながらゲートをくぐる。
中に日本人GOの方がいて、「どちらのグループですか?」と聞かれた。
「予約はしてないんです」
「えっ?」
ボラボラには地中海クラブのバカンス村が二つあり、一行が最初に行くことになっていたのはもうひとつの方で、バスに乗ったときには僕が両方のバカンス村の名前を忘れていたためちゃんと行き先を告げられず、バスのおばちゃんもタヒチアンでいいかげんなので、そのまま近い方のバカンス村まで僕を運んでくれたわけだ。どちらにしても彼等はあとからくるので正確に言えば予約していないわけでもなかったのだが、そんなことよりちょっと気まずい雰囲気になってきた。
「私が招待したんです」
その時うしろで聞き覚えのあるハスキーな声がした。
振り返るとモーレアを案内してくれたGOのYさんだ。ありがたい、助かった。
彼女はバカンス村の村長さんにも僕の仕事をちゃんと伝えてくれて、村長さんのご厚意で1キロほど向こうに見える無人島“オプ・タフ”に渡り、昼食までご馳走になった。
この小島はボラボラ島のなかでも特に風光明媚なところで、真っ白な珊瑚礁の砂に囲まれ日当たりは申し分なく、本島中央の霊峰オテマヌ山のシルエットも美しい。

ゆっくりと流れているはずの時間も、限られていればすぐに終わりが来る。
残念ながらYさんは2時にはもうここを発ち、モーレア島に帰らなければならなかった。

「ありがとう。来てよかった。できることならまた君を撮りたい。どこか世界の最高のステージで」
「ニューカレドニアにいらしたら?」
「行く、絶対行く」
「来られるときはクラブメッドでね」
「うん。ありがとう、いい旅だった。いっぱい宣伝するから」

彼女を乗せた双胴のカヤックが、オプ・タフの埠頭を離れていった。
カモメが飛び、椰子の林が風にそよいでいる。

日が沈むとすぐに暗くなった。
村長さんが特別に用意してくれたコテージの冷たいシャワーで汗を流し、浜辺に出て貝殻を拾っていると、最初にここのバカンス村で会った日本人GOのNさんと会った。タヒチに来て5ヶ月になる彼女の話を聞く。
地中海クラブに入り、初めてモルジブへ行ったとき、子供の頃から想い描いていたこういう風景に出合い、それがそっくりそのままだったことに感激して、以来、島巡りが病みつきになってしまったらしい。
タヒチへ来てびっくりしたのは、ホモセクシュアルが多いこと。ポリネシア人は概して背が高く顔が大きい。そういう人達が人目はばからずそういう仕草をする。なかでもいちばんショックだったのは、“犬のオカマちゃん”。交尾しているにしては少し様子がおかしいので、よく見てみるとオス同士だったそうな。
彼女の話に笑い転げているうちに腹が減ってきたのでレストランへ行く。
そこではひとつのテーブルに輪になって、地元の人たちがギターをかき鳴らし歌っていた。
聴き慣れるほどにいい歌だ。祭の歌、求愛の歌、自然を賛美する歌、歌詞の意味はまったくわからないけれど、どれもみな底抜けに陽気で心にしみた。